《第423話》『愛ゆえの痛み』
『……………………………………………………………………………………』
鳴狐の名前を出したからだろうか? 少しだけ、周囲に溢れる気配が変わった気がした。
呉葉に憑りついているときは、誰彼見境なく狂うだけだったその魂は、この場では聞く耳を持っているのかもしれない。
「あなたが多くのヒトを傷つけたのには変わりないし、それが元であなたが滅びた事実も変わりない。さらに言えば、そのためにあなたが自身の身よりも、何よりも大切にしていた鳴狐に危険が及んだことも」
『…………』
「けれど、それまでの道筋があったから、あなたが誰かのためにと頑張り続けたから、鳴狐は存在して、今も生きてるんだ。あの半人半狐は、あなたの人生の結晶そのもののハズだよ。なのに、それを否定してどうするのさ?」
自らさえも、万物の滅びの糧にするほどの怒りは、体験したことが無いためにわからない。
けれど、大切なヒトを想う気持ち。それだけは、心の底から理解できる。
――が、
『……――ッッ!! ……――ッッッ!!! ッッッッッ!!!!!』
お前ごときが、何を知ったように。と、そう言わんばかりに炎から灼熱で冷徹な波動が巻き起こった。
あまりの勢いに、僕は顔を覆う。
彼女は、自分が身勝手な言い分で怒り狂っている、と言うのも頭では理解しているようだった。自分のことを棚に上げ、娘一人を見逃せ、と言うのが、どれだけ虫のいい事を言っているのかを。
だが、理性以上に心が、それを納得しなかった。
その苦しみが。理性と心のこすれ合いが。その苦しみが。それが如何ほどのモノか。
愛しい者が、魂を引き裂くその痛み。それがお前にわかるのかと、怨念の中に見え隠れする意識が訴えかけてくる。
――――…………、
「――白面金毛九尾の狐」
『……――ッッ!! ッッッ!!!』
「――僕にも、愛する大切なヒトがいる」




