《第421話》『白く美しい顔の、黄金の毛並みの尾を九つ持つ大妖狐』
『――……、――……っ、――……!』
「…………」
ミキサー車でかき混ぜられるコンクリートのように、ぐるぐるとかき混ぜられながら燃え盛る炎。僕はその中に、怒りに満ちた瞳が見え隠れするのが見えた。
『……――ッ! ……――ッッ!!』
「――っ、何を君は、そんなに怒っているの……?」
『ッッッ!!! ッッッ!!! ……――ッッッ!!!』
炎は、僕の存在には気が付いていないように、ただ恨み辛みのこもった声をあたりに響かせるだけだった。
しかし、その言葉が鼓動のように、その炎のかつての記憶を訴えかけてくる。
この炎――白面金毛九尾の狐。それはかつて、大陸にて三度にわたる悪行を働き、国を転覆させてきた、悪しき妖怪。
しかしその真実は全て、闇に生きる者を一方的に敵視し、滅ぼそうとする人間から同胞を守るためであった。
姿も生まれも違う、幾多もの妖怪達。それらには邪悪な意志を持つ者もいたが、ひっそりと潜み、静かに暮らしていた者もいる。
しかし人間は、見境なくそれらまでもに刃を向け、目に映るたびに駆逐していった。何の慈悲もなく、ただただ、残酷に。
だから、この名もなき九尾の狐は立ち上がった。とりわけ力を持つ自身が、人間を操り、時には滅ぼすことで、彼らを抑制すべきである、と。
しかし、そんな強大な妖狐が、人間を愛してしまった。
大陸より離れた、列島で栄える国。故郷より離れたこの地でもまた、同じくして闇の中で生きる者達は謂われのない攻撃を受けていた。名もなき九尾もまた、大陸の時と同じくして、同胞を守るべく立ち上がる。
だが、その過程で人ならざる者との共存を選んだ権力者がいた。九尾がその変化した際の自身の美貌を持って近づいた人間だったが、あっさり正体を看破したばかりか、理解の意を示したのである。
その人間と関わり合い、話し合い、共に手を取り合う未来を模索し――そして遂には、半人半狐の娘まで儲けるに至った。
だが――、




