《第四十一話》『教官』
藍妃が僕に協力を頼んだ理由が分かった。そして、「平和維持継続室」が彼女に任務を言い渡した理由も。
「穹島先生、が――?」
「今はもう、『先生』じゃないわ。世の中を乱す、『悪党』よ」
そう言いきる藍妃の顔は、少しだけ硬かった。それも当然だろう。
穹島 栄ノ輔。訓練時代に僕と藍妃を指導していた、いわゆる教官である。以前、任務中に命を落としたと聞いたが、どうも彼女が渡された情報によると、それは間違いだったらしい。
「でも、まあ――うん、仕方ない、よ、ね」
「ええ。仕方ない、わ」
平和を乱す存在となった今、彼はもはや敵だった。過去どんな恩があったとしても、現在がそうなのであれば、僕達は戦わなくてはならない。
組織が藍妃に依頼したのは、きっと穹島先生の油断を誘うのと同時に、少しでも手を知っている者の方が楽に事を処理できると考えたためだろう。で、あるならば。彼女は、引いては協力を求められた僕は、その期待に応えなければならない。
「それで、対策はどんなモノを?」
「穹島の得意とするのは、『物理幻術』なのは分かっているわよね? そして、その発動条件も」
「うん」
「だから――これを使うわ。ちょっと、強引だけど」
そう言って、藍妃がハンドバッグから取り出したのは、一つのスタンガンだった。スイッチを引くと、先端の二極から電流が流れる、本来なら護身用の武器だ。
「二つ持ってきたから、一つはあんたに渡す。ワンタッチで一瞬だけ、だけど確実に意識を飛ばせるわ。一回起動後は、10秒間作動しないから気をつけて」
「相変わらず、そう言うの得意だよね――」
「まあ、ね。私がほかのヒトより優れてるところなんて、これくらいだし」
僕達は各々、藍妃の改造したスタンガンをポケットへと忍ばせ、目的地へと向かった。
――教わっているときは、こんな日が来ることになるなんて思いもしなかったな。




