《第417話》『討伐すべき存在』
「ふぅむ、しかしこのしぶとさ――如何にして我が物にしたものか。サンプルさえ手に入れば、如何様にでもできるが」
「っ、待て――!」
「うん? まだ何か用なのか? 汝らは、我にはもはや用はないハズであろう?」
一本の尻尾。道摩へと襲い掛かったそれを、室長は禍々しく変化させた片腕で受け止めた。そのまま明後日の方向へと投げ捨て、さらにその根元たる呉葉に邪気の弾丸を叩きつける。
「そうとも。我がこの肉体を手に入れるまでならば、汝らを傷つける可能性ゆえに、戦う理由もあったはず。だが、誰も命落とすことなく、力は我に収まった」
確かに、それ自体は道摩室長の言う通り、と言わざるを得ない。
だけど、だからと言ってすんなりハイソウデスカとは言い切ることができない。
それを体現するかのごとく、鳴狐が大剣を持って道摩へと突撃した。切っ先が、結界に阻まれる。
「言っておくが、余には貴様を害する理由があるぞえ?」
「この妖気――白面金毛九尾の狐と類似している……?」
「貴様は平和維持ナントカなどと言う戯けた組織を操っていた首領じゃ。闇を住処とする化生からすれば、怒りの対象そのものじゃからな」
「故に、その意趣返しをしようと言うのか?」
道摩の背中から、先端にカギヅメのついた触手が三本生えた。
「――っ!」
「結界の影響すらも抜けておらぬその身で、よく言う」
道摩の周囲に張られた障壁を抵抗なく突き抜け、触手が鳴狐を引き裂かんと襲い掛かる。
「ぐ、く――っ!」
九つの尻尾が、それに対応し触手を止める。だが、道摩の言った通り、力を消耗しきっているためか、明らかに押されている。
――僕は、一般構成員全員に配布される退魔の札を、触手へと投げつけた。
「っ、夜貴――!?」
「うん? 妖怪共を滅ぼす立場にいる者が、その妖怪に味方するというのか? さらに言えば、我はこの組織の頂点なのだぞ? 何のつもりだ?」
一瞬の隙をつき、鳴狐は離脱。触手そのモノには大した効果は無いようだが――仕事は十分果たせたと言えよう。
「――平和維持継続室の仕事は、妖怪や裏組織の人間を消すことじゃない」
汎用的な退魔術しか持たないが、それでも、僕も組織の一員なのである。
だから、僕のやることは最初から決まっている。
「むしろ討伐されるべきは、あなたのような自分勝手の権化だ!」




