《第416話》『怨みと憎悪の化身』
「そんな――そんなために、呉葉を、こんな目に……っ」
「我が必要だと考えた故に、そうしたまでだ。そもそも、呉葉とて安倍晴明には強い憎悪を抱いてしかるべきなのだぞ?」
「――っ!」
「それが故に、我の復讐に手を貸すことは道理ではないだろうか? むしろ、我の力の礎になれたことは、本望と言っていい」
道摩に悪びれる様子は微塵たりとなかった。むしろ、感謝を要求する態度でモノを言っている。
「その上、こうして届け物までしてくれた。かの大妖怪、白面金毛九尾の狐の、その強力な妖気の一部。酷く邪気を帯びているために、安易に手を出すのは厳しいが――」
道摩の周囲を、その言葉を遮るように黄金の槍が取り囲む。
「こう言ったしぶといモノを、なんと言うのだったか? ふぅむ」
「呉葉――ッ!?」
結界が、九つの尻尾の進撃を止めた。だが、暴力そのモノを体現するように叩きつけられたそれが、ギシギシと障壁を歪ませる。
「そうだ、思いだしたぞ。ゾンビだ」
防護壁が決壊するのと同時に、確かに道摩の姿がかき消えた。何もない虚空を、尻尾が抉り破壊する。
「っ、狂気鬼――! いや、母上なのか、え……?」
「鳴狐!」
「っ!」
猛り狂う尻尾が、鳴狐に襲い掛かろうとする。その寸前、彼女は剣の側面で黄金の槍を受け止めるが――、
「か、は――っ!」
勢い止め切れず、そのまま吹き飛ばされる。
「おとーさん!」
「ッ!」
僕の身体能力では避けられなかったであろうそれを、活葉まで抱えた謳葉が引き倒す形で助けてくれる。その際に頭を地面に強打してしまったが――死ぬよりずっとマシだ。
だが、そんな僕の身のことよりも――、
「呉葉――」
もはや、見る影もなく――それこそ、まさしく「生ける屍」のように痛々しいその姿は、見るに堪えなかった。




