《第415話》『平行世界過去未来』
「未来にて人々を苦しめた『邪気の影』と呉葉が名付けた存在。ある時間軸に置いて、それは元々、我の力の関与しない存在だった」
道摩の前に、こぶし大の黒い邪気の塊が作られた。
「『邪気の影』は、元は単純な、狂気鬼より切り離された邪気の塊だったのだ。それが限界に来ていた封印を破り、バラバラに飛びだし、溢れ、世界へと散り、人々の心に作用し問題を起こしていたのがある時間軸。それは、汝ら双子が生まれて100年先の未来でもある」
邪気の塊は、その場で無数の霧に分裂する。その隣で、また一つ邪気の塊が生まれた。
「そしてその時間軸の『道摩』は過去の『道摩』へと監視結果を提示。その力が安倍晴明に対応する術となりうると判断した結果、早期に封印を破らせた。ただしその際は、邪気の影が分散しないよう一つの手立てを加えてだ」
新たに現れた黒い邪気の塊は、その大きさのまま、その場でひゅんひゅん飛び回った。自由を得た小鳥のように。
「そこで、問題が起こる。ただの怒りと憎悪の塊であるそれに、意識と呼べるものはない。この世の全ての邪念を次々と吸い上げ、遂には手の付けられぬバケモノとなり果てた。故に、『道摩』はその時間軸を捨て、過去へと立ち返り、何度も失敗を繰り返し、試行錯誤を繰り返す」
邪気の塊が、いくつも現れる。道摩が教材とし、生み出したそれらは――見上げる程膨大な数となっていた。
「そうして、今の時間軸に至る。双子の遺伝子の介在無しに、呉葉の肉体を得て邪気の影を取り込もうと画策したこともあったな。しかし、呉葉だけならともかく、そこに強いつながりを持つ『邪気の影』まで入り込んだ時間軸の我の精神は、耐えることは叶わなかった。故に、汝らに手伝ってもらうこととなったのだ」
全ての邪気の塊が消滅し、一つの邪気の塊と、霊力。それから邪気、霊力が混合した塊が道摩の前に生み出される。
「言うなれば、汝ら双子は、我のために作られた存在なのだ。樹那佐 夜貴と言う、この餓えなくまっさらな人間に、邪気の影をコントロールする人格を作らせたのも我」
邪気の塊と霊力と、それから混合体。その全てが交じり合う。
「感謝するぞ諸君。おかげで、遂に我は――この究極の力を手に入れることができたのだからな」




