《第412話》『統括室長』
「――っ!」
「ほう、これはこれは――よもや観客が現れるとは」
「む、あやつは――?」
呉葉に相対するのは――えっ、くれ、は……?
「君は、一体――?」
「見て分からんか? 汝の愛する呉葉であろう?」
「君が呉葉ではなく、目の前にいる方が呉葉だよ――! 勝手に、僕の愛するヒトを語らないでほしい……っ」
「はははっ、これは失敬。いやはや、そこの呉葉の惨状を見てなお、我ではなくそちらを本物と見破るとは。汝らの絆を侮っていたこと、詫びると――」
「あ、ァ――ッッ!!」
呉葉の偽物に、九つの尾を生やした呉葉が飛び掛かる。
「白鬼よ。呉葉よ。今、我は会話の最中なのだぞ? 少しは辛抱してくれぬか」
偽物が自らを結界で覆い、呉葉の両腕による攻撃を止めた。
すると呉葉の尻尾が蠢き、柔軟な槍のように結界を周囲から攻撃した。
「ぬ、く――っ! はは、ははっ! 全く、少しは加減してほしいモノだ、な……っ」
偽物はくるりと後ろを向くと、呉葉と全く同じ白い髪をまるでハリネズミのように逆立てた。
無数の細かい針と化したそれが、結界を抜けて呉葉の身体を貫通する。
「ぎ、あ――っ!?」
「呉葉ッ!」
だが、呉葉はそんなモノを無視するかのように槍と腕を押し進める。
周囲に、衝撃の余波が散る。そして遂に、偽物を守る防護壁は風船のように弾け飛んだ。
尻尾が、ぐしゃりとその術者を破砕する――、
「全く、かの大妖怪の妖力はまるで馬鹿にならんな」
ように見えた。気が付けば、偽物は呉葉の背後に立っている。
そして、 大きく広げた腕から、無数の鬼火を邪気に支配された鬼神へと放つ。
「さて、我が何者か、だったな」
煙の中でゆっくりと倒れ行く呉葉に身体を向けたまま、その存在はこちらに視線を向けてくる。
「我は道摩。道摩法師とかつては呼ばれ、芦屋道万とも呼ばれていた陰陽師よ」




