《第411話》『殺生石の妖気と邪気』
「あそこ――っ!」
ビルが突然倒壊したため、街中は大混乱になっていた。逃げ惑う人々の間を抜けて、その先で未だに粉塵が舞っている場所へとたどり着く。
「やはり、間違いは無いようじゃな。あの馬鹿者め」
「殺生石――」
鳴狐の感じ取った気配、殺生石とは。退治された彼女の母親、白面金毛九尾の狐が転じたモノである。
遠い昔、長きにわたる戦いで倒れたかつての大妖狐。石となったその妖怪は、憤怒と怨念で瘴気振りまき周囲を死の世界へと変えていたと聞く。
しばらくの後、その石も砕かれるのだが、それでも強力な力を持つ破片たるそれを、母の無念を晴らすべく、鳴狐は求めていた。
そんな鳴狐の野望を阻止すべく、呉葉は殺生石の破片を守っていたはずだった。
「余から遠ざけておきながら、その力を自らに取り込むとは、何たる愚行じゃ!」
「で、でも、ホント、なの――? 呉葉が、そんな……殺生石の妖力を自らに取りこんだなんて」
「狂鬼姫と、我が偉大なる母の妖気が混ざり合っておるのじゃ。じゃが、これは――」
「――っ、戦いの音……ッ!?」
舞い上がる粉塵の中を抜けて。大地の砕ける音がだんだんと近づいてくる。
それは、激しく、そして凶悪な破壊音。この中で呉葉が戦っていると思うと、気が気ではない。それも、自ら危険なモノと語っていた妖怪の破片まで使って。
そうして、僕はその現場を目の当たりにする。そこにいたのは、
「呉葉ッ! ……――っっ!!?」
怒りを体現するかのように蠢く九つの狐の尾。
色濃い邪気と妖気で変質した両腕。
全身から放たれる鋭い殺気。
うつろだが憎悪をたたえた瞳。
変わり果てた姿の、僕の最愛のヒトだった。




