《第410話》『揃いきった要素』
呉葉の腕を、足を、身体を、まるで包帯でも巻くかのように捕らえた、道摩の腕。質感はゴムかバリウムのような無機物そのモノで、とても生き物の一部であるようには誰にも思えないだろう。
その上、今の道摩には頭がない。脳ミソはその頭上に浮いているが、呉葉の姿をかたどった人型の頭は、他の誰でもない、呉葉が吹き飛ばした。
『…………』
「ぐ、ゥ、ア――ッ!」
呉葉に生えた九つの尾が開き、道摩の身体を真っ二つにする。
しかし、道摩はまるで堪えた様子などない。それどころか、捕縛した腕から触手が現れ、何かを求めるように動き始める。
「おかーさん――っ」
「謳葉、今は引く、わよ――!」
「でも、おかーさんが――!」
「おかーさんが正気なら、まず間違いなく、逃げろと言っているわ! だか、ら――っ」
「――っ、」
全くもってその通りだと、謳葉はしぶしぶ頷いた。今暴れているのは、自分たちの母親ではない何かなのだ。もし自分達娘を手にかければ、目の前の母親が悲しむ。
ともにいる時間は短くとも、特別なつながりが彼女らの絆を強固なるモノにしていた。
だからこそ、今はこの場から離れるのだ。母親が、あの化け物を倒しさえすれば、元に戻ってくると信じて。
「い、ぎぎっ、ぎ――ッ」
『…………』
鬼火とも何ともつかない、真っ黒な炎が呉葉の全身から放たれる。その威力は彼女本来のそれとは比べもようもなく高く、容易く道摩の腕を焼き切った。
「…………」
身体を元の人型に修復しつつ距離をとる道摩。それを、うつろな目で睨み付ける呉葉。どちらが、もはや何のために戦っているのかすら、分からない、そんな光景。
――――…………、
そんな時。狂鬼姫の姿をした道摩の背中から無数の触手が弾け、その頭上にある脳ミソを取り込んだ。




