《第409話》『狂鬼姫と真の狂気』
膨大な邪気と妖気を漲らせ、獰猛な蛇のごとく黄金の尻尾が動き回る。それら一つ一つは、その場で最も存在感を放つ道摩を狙い、粉砕せんと容赦なく襲い掛かる。
『…………』
「――ッ、……ッ!」
地上に足を降ろした道摩は、相変わらず頭上に脳ミソを浮かせたまま、素早い動作で呉葉の攻撃をかわしていく。降り注ぐ尻尾は振り下ろされるつるはしのごとく凶悪に叩きつけられていくが、一つとして命中することは無い。
「――!」
「ァ――ッ!」
しかし、道摩の逃れた先に、邪気を帯びた呉葉が先回りする。
触れれば、草木など一瞬にして枯らすであろう暗黒の闘気。それを纏った拳が、狂気鬼の姿をした道摩の頭に直撃する。
その一撃で、殴られた鬼の頭部は粉々に吹き飛んだ。
「ゥ、グ、ゥ――……っ」
「っ、やばい、マズいよ、こっちみてる――!」
「おかーさん――!」
次の獲物に狙いを定めた獅子のように、呉葉は双子に目をつけた。
その眼差しと黒き怨念は、生きとし生ける者全てに怒りの炎を滾らせていた。まるで、別の意思の激情に動かされるように。
「おかーさん! おかーさん、わたしたちだよっ!」
「ぎ、ゥ、あ――っ」
「おかーさん!」
「ゥ、ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「ダメよ謳葉ッ!」
活葉が謳葉を再び庇うと、双子の妹の背中が邪気の刃で切り裂かれる。鮮血が、しぶきとなって宙を舞った。
「う、あ、く――っ」
「活葉!? 活葉ッ!」
「わた、しは大丈夫――大した傷じゃない、わ。けど、今はおかーさんから逃げたほうがいいのは確実、よ」
「――っ」
謳葉と活葉に、呉葉の尻尾、その先端九つが全て向けられた。
「謳葉! 逃げ。て――ッ!」
「う、く、うう――っ! おかーさん……っ」
母が、二人の娘を狂気のままに手にかけんとしたその時。
頭のなくなった道摩から伸びた腕が、呉葉を捕縛した。




