《第408話》『奥の手』
「っ、この、気配は――ッ!?」
「鳴狐――?」
突然結界が弾けたことを疑問に思う暇もなく、藤原 鳴狐の耳がぴくりと動いた。
「いや、そんなまさか――そんな筈。じゃが……」
「だ、だから、どうしたんだよ!?」
剣呑にひそめられた眉。一応、僕もおぞましい気配を感じているが――大妖怪である彼女がここまで顔をしかめるとなると、相当に只ならない何かを察知したと予想される。
「夜貴、貴様はあの狂気鬼が――そうだな、何かに苦労しているような、苦しんでるような様子を見たりはしなかったかえ?」
「僕が邪気の影に操られた時とか、この間の喧嘩したときとか、かな――」
「誰が惚気を聞かせろと言ったのじゃ」
「少なくとも前者は違うことない!?」
「――ううむ、曖昧な証言で断定は出来ぬのう」
「じゃあなんで聞いたんだよ!?」
「じゃがまあ、今まで何の前触れもなかったことから考えて、まあ、とうぜんじゃろうな。狂鬼姫の奴め、余にはああ言っておいて――」
「ホントに、いったい何なの――?」
顔は相変わらず苦々しい表情。
しかし、次に彼女が口にした言葉で、僕はその理由を理解する。
「殺生石――」




