《第407話》『狂戦士』
「おかー……さん?」
捕縛していた者も結界も破れ、下に落ちた謳葉は疑いの入り混じった様子でそちらを見た。
「な、に? 何なの? おかーさんから発せられる、怨みと憎悪を練り固めたかのような邪気、そして妖気、は――?」
活葉もまた、混乱した様子でそれを見た。敢えて口に出さずとも分かっているだろうに詳細を口にしたのは、姉である謳葉に目の前の事態が夢か現実かを問うためだったのだろう。
それほどまでに、呉葉と言う名の鬼は、気配から姿に至るまで異常だった。
その身の奥底から湧き上がる気配は双子が感じている通り。傷を負っていた片腕は未だに痛々しく、全身から血を流しながら立つ様は禁術で蘇らされた死者のよう。
そして何より。その背後には禍々しく金色の光を放つ、九本の尻尾が揺らめき動いている。
尻尾が動く――……、
『…………』
「…………」
刹那。狂鬼姫の姿をした道摩が、瞬間的に飛び掛かってきた呉葉に吹き飛ばされた。
「あ、が、が――ッ!」
天に向かって伸びあがった尻尾は、地面に仰向けで倒れる道摩へと向け振り下ろされる。その様子は腹を空かせた獰猛な獣のようで、一瞬のうちに周囲の地面が抉られる。
――が、道摩は少し離れた位置に着地。呉葉と同じ、空間跳躍にて追撃を免れていた。
「ちょ、ちょっとおかーさん!? どーしちゃったの!?」
「う、ア、ぎ――っ!」
「っ、謳葉ッ!」
活葉が謳葉を引っ張って地面に倒したその上を、黄金色の尻尾が蛇が狙いをつけた獲物へと向かうように通り抜けていく。
――確実に、今の攻撃は謳葉を狙っていた。
「おかーさん――?」
「――信じがたい、事だけど……今のおかーさん、正気じゃない、わ」




