《第406話》『最終工程』
「おかー、さん――? え? え? どーいうこ、と……?」
常に自分達に張られた圧縮結界で苦しみながらも、謳葉は自分が連れていかれる先に、自分達双子の母親が宙に浮いているのを確認した。
「い、いえ、おかーさんではない、わ、ね」
活葉は、目の前にいるのが己の母ではないことに気が付く。あれほど禍々しい邪気を放つ存在が、自分たちの母親であるはずがない。
「んふふっ♪ アレはワレらがアルジ、ドウマサマのアタラしいカラダよぉ? モトモトのキョウキキさんはぁ――ほォら、あそこ」
「「――っ!?」」
サンジン・ショコウの指し示すその先。血の海で大の字になっている、少女のような姿の鬼神の姿に、双子は絶句した。
その心への衝撃は、目の前の出来事が自らを過去へと送るように指令を出した相手によるモノだと知らされても、それが耳に入らぬ程で。
「アナタタチはぁ、ニンゲンとオニとイうマッタくイなるソンザイが、キョゼツしあうことナくマざりあったソンザイなの。だから、ドウマサマはウツワをカンゼンなモノとすべく、アナタタチをトりコむヒツヨウがあるのよぉ」
物心ついた時には、既に亡くなっていた母親。過去へと戻り、自分たちがそんな運命を変えるのだと息巻いたが、結果は目前の通り。
始めて母と会えて。我が子と頭を撫でられ、もしかしたら浮かれてしまったのかもしれない。あの時ああしておけばもしかしたら。こうしておけばともすれば。そう言った後悔が双子の中で全く同じに渦を巻く。
――しかし、全ては過ぎてしまった自体。目の前にあるのは、冷徹な現実。
「ハァーイ、ドウマサマ♪ リョーカイしましたよぉ。じゃあナげますねぇ? しっかりキャッチしてくださぁい!」
呉葉と呼ばれていた鬼と、全く同じ姿のそれの頭が変質。ハエトリグサのごとく、牙の生え揃い大きく裂けた口そのモノとなる。
道摩は、そのまま双子を喰らおうとしていた。時には、直接的で粗暴な手段が一番効率的でもあることを、機械と一体化した脳は知っていたから。
牙が、身動き一つとれぬ双子に、今かからんと――、
「ぎげっ」
サンジン・ショコウの頭部を、黄金の槍のような何かが木っ端微塵にした。




