表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼嫁! 呉葉さん!  作者: /黒
第十三章
406/1022

《第405話》『跳ねる心臓』

「…………」


 大の字になって倒れる妾を、妾が見下ろしている。絶対零度の眼差しは、心が無いとはまた異なる、鋭く突き刺さるような、触れれば凍傷では済まないような視線。

 漂わせる気配にもまた、妾と酷似。それどころか、まるで同じ。しかし、そこに邪気の影と同様の、胃を圧迫するかのような気分悪さが含まれており、それで妾は、偽物が邪気の影と融合した者であると確信する。


 ――体が動かない。


 度重なる身体への深刻なダメージ。疲労。指先一本ですら、動かすことはままならず、もはやこれまでだと言う事を認めざるを得なかった。

 妾の中で、一抹の後悔と安堵の入り混じった複雑な感情が渦を巻く。

 夜貴の言う通り、皆で協力して応対すればよかったと思う一方、妾一人の犠牲で済んだという想い。

 妾でさえこうなのであれば、他者でも同じか、もしくはそれ以上の傷を負っていた。下手をすれば死んでいた可能性すらも、充分にある。

想像するだけで、何という恐ろしさか。妾の愛するヒトが。同胞が。痛々しく傷を負いながら命を落としていくなど。命は、漫画や映画のように軽くはないのだ。


 ――ああ、そうか。夜貴は、こういうことを言っていたのか。


 ここまで来て、ようやく愛する夫の言っていた言葉の意味を理解する。

 妾の知らぬところで、愛する相手の命が無残に消されてゆく。それは確かに恐怖であるが、その恐怖は夜貴たちも同じだったのだ。

 己の力を、過信しすぎていたというのもあるだろう。しかし、それ以前にアイツらの気持ちも考えてやれていなかったのだ。

 妾はなんと愚かだったのか。今更それに気が付くなど。

 しかし、全ては過ぎてしまったこと。己のしでかした過ちに、気が付くのが遅――、


「ドウマサマ~! オニのフタゴを、おツれしましたよぉ~?」


 その時、この状況にはとてもそぐわない間抜けな声が聞こえる。霞む視界でその方向を見ると、血の気が引いた。


 金属の生首が、謳葉と活葉を咥えて宙に浮いていたのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ