《第399話》『人を憎む妖狐の自尊』
「すごい――いったい何が……」
「む? ああ、何のことは無い。ちょっと本気を出してやっただけじゃ」
何人も存在していた藤原 鳴狐が、一瞬にして重なり合う。その後、一本だけだった尻尾が、元の九本へと戻る。
「ヤツが言っておったじゃろう。天狐は、九尾よりも尻尾が少ないと。本来尻尾に蓄えていた力を、自らが仕える神とやらに認められ、その奇跡により身体のうちへ取り込めると」
「う、うん――僕も、そんな話を知ってる」
「そうすることにより、より自由に力を扱えるようになるのじゃ。力そのものと一体化する、と言うべきかのう?」
「で、でも、今君は――」
「うむ。尻尾にある力をこの身に取り込み、本来の力を全て発揮してやったのじゃ。母上にすらできぬ、この藤原 鳴狐だからこそ可能な技――あまり、使いたくはなかったが」
「どうして?」
「――っ、」
そう問うと、突然鳴狐は言葉を詰まらせた。
「……――から、じゃ」
「――?」
「に、人間の部分に、妖力を押し込めて完全な妖怪化――」
「人間の部分?」
「う、うるさいのう! そんなことよりも、あの子らのことじゃろうが!」
「そ、そうだった――謳葉! 活葉!」
それにしても、人間の部分――そう言えば、彼女は狐と人間の半妖だった。
言葉を濁したのは、鳴狐が嫌っている人間の部分を活用したからゆえなのかもしれない。
けれども、そんな気はなかったかもしれないが、敢えてこう彼女に言いたい。
ありがとう、と。




