《第三十九話》『伝説上の生き物!』
ふっふっふ――妾の変装は完璧! どこからどう見ても、ベテランの探偵のような姿であるに違いない! まさか夫の浮気調査のために使うことになるとは思ってもみなかったが、セット一式を買っておいてよかった。まあ、この口に加えているパイプからはシャボン玉しか出ないのだが。
「――む?」
そのまま後を追いかけ続けていたが、次第に、夜貴の歩いて行くルートがおかしなことになってきたことに気が付く。
「(――なぜ山?)」
歩いて行くうちに、その道はだんだんと木々の生い茂る山中へと伸びていく。しかも横道にそれたかと思えば、獣道へ。
夜貴は、こんなところにいったい何の用だと――?
ダッ!
っ――!? 夜貴が走りだした!? まさか、後をつけていることがバレたのか!?
ここで見失うわけにはいかない。妾はそれに合わせ慌てて走る。体は大きくなくとも、これでも鬼神。身体能力で、人間に劣るわけがない。
そんなことで、この妾が撒けるとでも――、
ガッ
あ、これあかんやつや。
木の根っこだろうか? 足は止められたまま、しかし慣性は前へと働き続けたまま、しかし体は前へと進むことはなく、視界は急速に下がり始める。
要するに、だ。
妾、顔面から勢いよく転んでしまいました。
「あ、ぐ、く、おのれぇ――ぇ?」
転んだ妾が顔を上げたとき、そこには信じがたい光景が!
「ツ、ツチノコ――?」
なんと! そこにはあの幻の生物、ツチノコがもぞもぞしているではないか! 思わず妾はその胴体が太い蛇のような生き物をわしっと掴んだ。
妾の脳裏には、次の日それを持ってピースしながら新聞の一面を飾る自分の姿が浮かぶ。瞬く間に有名人となった妾は、一躍時のヒトに――。
「――って、そんな場合じゃないだろうッッ!!?」
妾はそのツチノコを遠方に投げつけ叫んだ。お日様に向かって飛んでいく可愛らしい生き物が、スパイラルしながら消えていく。しかし、それを見送る時間も今は惜しい。
「夜貴っ! 夜貴はどこだ、夜貴ァ! ――よた、か?」
辺りを見回せど、立っているのは樹木ばかり――。
「おのれツチノコめぇッ! よくも妾を幻術にかけおったな不思議生物め今度会ったら許さんぞォ! 夜貴ァ、どこだあああああああああああああああああああああッッッ!!!」




