《第三話》『逆ミディアムウェルダン気味』
「た、確かに、中まで火は通ってるんだけど、ね――」
「うむぅ、どうしてこうなった――」
呉葉は自分の分のステーキも切り開いて、中身を確認する。
――モノのみごとに真っ黒である。
「すまん。代わりの何かを用意する」
「あ、いや、大丈夫だよ――割と大丈夫な範囲多いし。外側の部分は割とイケそう……」
「しかし、料理というモノはなかなかに難しいな」
「どうして鬼火使おうとしたのさ――」
鬼火とは、妖怪を始めとした超常的な存在が、これまた超常的な力で作りだすエネルギーの塊だ。特に、鬼の中でも高等レベルな呉葉なら、そこそこ自由自在に操ることが可能だろう。
だが、料理に使おうと思ったのは、おそらく彼女が初めてだろう。
「理由は簡単だ。ガス台よりもこちらの方が使い慣れている」
「――でしょうね」
「夜貴は知らんだろうが、昔は敵を屠るのさえ手の下し方に無駄に気を使ったものでな?」
「ふむふむ?」
「外側は綺麗な状態のまま、中身だけを焼いて殺すという方法を妾なりの個性、芸術センスとし、それを極めようとしたりもしたのだ」
「な、何とも猟奇的なご趣味ですね――」
「火力は押さえていたが、ついその時のことを思いだしてしまった」
「――で、今回はその時の気分のまま鬼火お肉に使っちゃった、と」
「うむ」
「…………」
「…………」
「このお肉は君の敵じゃないよ?」
「――猛省する」