《第389話》『昔は騙されていたらしい』
「ぐむむむむ――っ! ここまでとは……」
「せめて最初から三人でかかって来れば、余の暇つぶしにはなったかもしれんがのう?」
鳴狐が一歩前へと踏み出すと、じりっと鈴木さんが後ろに下がる。
呉葉という大きな存在がいつもぞんざいに扱っていたためにわからなかったが、その圧倒的力はまさに本物の大妖怪であった。平和維持継続室のエリートと言われ、かつ室長・道摩の式神と自称する彼女らを容易くあしらっている。
「――しかし、娘とはにわかに信じがたいが、狂気鬼のヤツはどこに行ったんじゃ」
「娘たちで間違えておいて、そこの偽物には一切反応しないんだね」
「つーん」
娘たちは確かに呉葉にそっくりだが、容姿に関して言えば当然偽物の方が本人に近い、というよりそのモノだ。
「そいつから感じる気配は、紙のように薄いではないかえ?」
「え、そ、そう、かな――というか、あんまりよく分からない……」
「それでもあやつの夫を名乗るか!? 大きく見せてはいるが、膨れ上がった紙風船のようじゃろう!?」
「そんなこと言われても――」
ぶっちゃけ、大した力も持っていない僕にはそのあたりまでは察せない。――ちょっと悔しい。
「はっ!」
突如飛来してきた何かを、鳴狐は剣で弾いた。――それは、世間一般的に販売されているようなおたまだった。
「きぃーっ! もうっ! まるで終わったみたいに和やかな会話しないでよね!?」
「決着は既についたも同然じゃろ――? 貴様らごときなんぞより、狂気鬼を余は探しているのじゃからな。そこの子らを苦しめている結界を止めるのを、おしゃべりしながら待っていただけじゃ」
「うぎぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ! 馬鹿にしまくってる! 超☆ムカつく!」
鈴木さんは、地団太を踏んで怒鳴り散らした。しかし、結界内でなおこの圧倒的戦力さを考えれば、それ以外の道は――、
「――いーわよ、結界、解いてあげる」




