《第三十八話》『追う者、追われる者』
さて、僕は呉葉に買い物に行ってくると告げ、こうして外へ出た。
もっとも、それは真実ではない。訓練時代の同期に応援を「どうしても」と要請されたのを、呉葉には余計な心配をさせまいと、危険から遠ざけようとしたために咄嗟についた嘘である。
我ながら、あまりに下手くそな嘘だと思う。振り返ってみても、買い物へ行って今日は帰ってこないかもしれないとか、奇妙にも程がある。
――だけど、だよ?
「こそこそ。こそっ。――こそこそ、こそこそ。……こそ、こそ」
あんな見え見えの変装と尾行よりは、よっぽどマシだと思うんだ――。
「(何やってるんだろう――いや、僕の後をつけてるのは分かりやすいくらい分かってるんだけど。それにしても、)」
サングラス。マスク。ハンチング帽にベージュのコート。あんなの、どこにしまってあったんだろう。僕はそんなちょっとぬけてる呉葉を、路肩に留めてある車のミラーで確認しながら目的地へと向かう。
それにしても、どんな格好していても呉葉って目立つなァ。
鬼の気配はきっちり消しているものの、元々の綺麗で艶やかな白い髪や、白磁のような、それでいて触れ心地のよさそうな肌はどうしても隠しようがない。
それに、やはり存在感と言うのだろうか? にじみ出る気品は押さえきれていないわけで、やっぱり僕にはそれが呉葉であるというのがバレバレである。
しかし、このまま彼女が付いてきてしまえば、応援を要請した相手は不審がるだろう。そのヒトは別の事務所に在籍しているため、もし呉葉が鬼だと見抜かれてしまったら、まず間違いなく大変なことになるだろう。
――呉葉のためにも、ここは彼女を撒かなければ。




