《第388話》『対特殊生命体科学スモッグ』
「GO! 高橋さん!」
「ひぃっひっひっひ!」
怪しい老婆が、鳴狐へと毒ガスめいたモノを吹きかけた。それは佐藤さんごとその場所を覆い、一瞬にして中が確認できなくなるほどの密度となる。
「っ、仲間ごと!?」
「止まったモノはしょうがないからねー」
もわもわと密集した、紫色の気体。吹きつけられるのが終わって数秒経ってから、それは霧散を始める。
中には、人影が二人分――、
「んふふふふ、密集性のあるガスで、あっという間にドロドロに――」
「なったのは、そこのデクノボーだけのようじゃがな?」
「っ、嘘ォッ!?」
ガスが晴れて現れたのは、全く意に介していない様子の鳴狐と、黒の革ジャケットだったボロボロの衣服を纏う、これまた見るに堪えない姿の佐藤さんだ。
「さて、次なる餌食はそこのババァかえ?」
「ひっ、ひひひィッ!」
高橋さんが、その衣服を引きちぎりながら分裂した。頭とそれぞれの腕、足。五つのパーツに分かれ、鳴狐へと襲い掛かる。
「余に斬られる前に自ら分断するとは」
「いいぞー! やっちゃってー!」
「ひひっ、ひぃーっひっひっひ!!」
鳴狐を五つの方向から囲んだ高橋さんの身体は、断面部分から、またもやガスを噴射した。赤に紫に黒に黄色に緑に。一見カラフルに煙を出して飛ぶ飛行機のようだが――、
「どれかは効くっしょ!」
やはり、全て毒ガスのよう。一斉に噴霧されたそれらは、逃げ場など一瞬にして塞いでいく。――だが鳴狐は、
「その芸は身飽きたのじゃ」
九つの尻尾を振って突風を起こし、それらを全て五つの高橋さんへと返してしまった。




