《第三十七話》『疑惑の――』
いやいや、まさか、そんな。夜貴に限ってそんなことあるはずがなかろう。最も信頼すべき相手を疑うとは何事か。
そもそも、妾と夜貴はまだまだ新婚と言ってもいいほどだ。長年連れ添った夫婦には倦怠期と言うモノがあると言うが、それが来るにはまだ早い。というかどれだけ経とうが来てたまるか。
だから、我が素晴らしき夫、夜貴が、そんな他の女に現を抜かすことなど――、
「そ、それじゃあ、僕ちょっと買い物に――」
「ちょぉっと待てェい!?」
「な、何――?」
「どうして突然買い物に行こうとする!? いったい何を買いに行くというのだ!?」
「えっ!? え――あー……あー、あー」
「あーあー言ってるだけでは分からんぞ!」
「べ、別に対したモノを買うわけじゃないよ。ただちょっと、頼まれていたモノを今思いだして――」
「頼まれたモノとは何だ!」
「え、ええっと、その、ええっと――」
「エロ本か!」
「どうしてその推測に至ったのかものすごく気になるよ!?」
「ならばいったい何だというのだ!」
「え、えと、その、なな、何でもいいでしょ! プライバシーだよプライバシー!」
なるほど、どうしても言いたくはないらしい。おそらく、このまま聞き続けても埒が明かないだろう。
――と、なれば。
「――まあいいだろう。行くがいい」
「えっ、いいの?」
「別に、ただの買い物なのだろう? であるならば、わざわざ妾が付いて行く必要はあるまい。――本当のことを言うと、ずっと共に居たいがな」
妾がそう言うと、夜貴は思案顔になる。が、すぐに得心言ったように頷いた。
「――分かった。それじゃあ行ってくるよ。夕食は多分いらないくなるから! もしかしたら日をまたぐかもしれないし、先に寝てていいよ!」
嘘、下手!? 何故買い物で日をまたぐのだ!? ――まあいい。
「それじゃあ、行ってきます!」
「うむ、行ってくるがよい」
そう言って、夜貴はいろいろ準備をしてから。家を出て行った。――さぁて、
「後をつけるか」




