《第374話》『狂鬼姫の負傷』
「さて、これはどうしたことかな――よもや一応味方だと思っていたヤツが、よもや敵だったとは。こんな化け物を生み出せば、この国は大混乱に陥るぞ?」
今はこんな籠の中で暴れているが、解放されればこいつを止める手立ては限られているだろう。にもかかわらず、それを作りだしたのが平和維持継続室のトップとは。
『問題はありません。計画は順調に進んでいます』
「貴様の計画とは、いったい何だ!? ――ッ、くっ」
人型に入った邪気の影が、どこぞの麦わら帽海賊のごとく腕を伸ばしてくる。ただしその手はやはりカギヅメのようで、あのようにして掴む工事現場の機械を見たことがある気がする。
妾は身をそらして回避。頭のすぐ傍を腕が通り抜ける。
続けて下から床を貫いて尻尾。妾は跳躍し、空間に空けた穴へと回避。
逃げる気などさらさらない。背後に回り込み、邪気の影の背中へと妖力を込め拳を振り下ろす。
「獲った――ッ」
「ギ、ギギ――」
「何!?」
肩口からぱっくりと裂けた人型。牙の生え揃った新たな口。某バイオなホラゲのボスにありそうな姿の変化。
妾の腕が、そのおぞましい口に――、
「――――ッッッ!!!」
腕ががっちりと噛み掴まれる。鋭い牙がズブリと皮膚を食い破り、ぐしゃりと肉を貫き、骨をゴキゴキと砕く。
さしもの妾も、痛みに顔を歪めるしかなかった。
だが、このまま悠長に苦しんでいては本気で噛み切られてしまう。もしくは、ヤツの身体から生まれつつある触手に、動けぬ状態のまま貫かれてしまうか。
何にせよ、このままでいるわけにはいかない。
妾は傷ついた腕から妖気を放ち、内側から口を無理やりこじ開けた。
「ギ、ググ、逃シタ、カ――ガ、マダ狙ウ猶予ガ、我ニハアル」
「く、くくっ、抜かせ、調子に乗るなと言っておるだろう――!」
だらりと、負傷した腕が重力に引かれる。人を超えた鬼である妾は、この程度の怪我と出血で死ぬことは無いが――、
ぶっちゃけ、この腕はしばらく使い物にならない。状況が、なお悪くなった。




