《第369話》『死なない者など存在しない。それが例え思念であっても』
「クカカッ！ 妙ニ台詞ガ黴臭イノハアイカワラズカ！ ダガ、我ハマダコノ場ノ邪気ヲ全て吸収シタワケデハナイ」
「――フン、貴様の言いワケゼリフこそ、随分とヤラレ訳らしいではないか。ならば、それを吸収した力とやら、見せてもらおうか」
「ッ、調子ニ乗ルナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ！！」
邪気の影が、充満していた邪気を取りこみ始める。元から存在した分だけでなく、先ほど霧散させたモノまでもが集まっていき――、
「ギ、ゲ、ゴ、ゲ、ゲェ――ッ、次ハ油断セヌ、ゾ……ッ」
ヤツは、腐乱し放置された死体のごとく、その全身を膨れ上がらせた。今度こそ、本当にこの場の邪気の多くを取りこんだのだろう。薄気味悪い笑みを浮かべてこちらを睨み付けてくる。
「ほう――再生、か」
「ソノ通リ――邪悪ナル念ハ本来形ナド無イ。スナワチソレハ、」
邪気の影を構成している密度の濃い身体が分散し、妾を取り囲んだ。
「コノ身ヲ滅ボスコトガ出来ヌコトヲ意味シテイル――ッ！」
先ほどの触手を思わせる、全方向からの攻撃。一つ一つが串刺し公の用いた杭のごとく重く、鋭く尖り、潰し貫こうと襲い掛かってくる。
――だが、
「分かっているクセに、威勢だけは一人前だな」
結局のところ、さっきからされていることは大して変わらない。
両手で燃え上がらせた鬼火を、一つ一つの弾丸として拡散させ杭を撃ち落とす。
しかし、それだけで終わるつもりはさらさらない。お返しとして、今は首だけで浮いている姿の邪気の影にその炎を叩きつける。
「ギュギェビャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ！！？」
「意識が存在する。すなわち、それは魂と言う本体が存在することを意味する。貴様は自分で妾の攻撃を避けておきながら、なぜ己がそうしたか、分かっていないのか？」
「オ、ゴゴゴ、ゴ――……」
「その魂を核として、邪気は集合する。なれば、この妖力を持ってその魂を粉々に粉砕するまで。直感的に危機を察したのだろうが、その中見が見えていなかったな」
そして、妾はもはや逃がすつもりはない。以前は邪気に鬼火を弾かれたが、壁の内側に転移すればそれも無意味となる。
勝ちは確定している。そう確信しながらも、決して気を緩めず両の眼で凝視しているその時だった。
部屋に、突如明かりが灯った。
