《第368話》『闇の残りカスなど、恐るるに足らず』
無数の触手。自由自在に伸びあがり、周囲から妾を刺し貫こうと襲い掛かってくる。粘土か貴様は。
――ドン、と。破壊音が部屋中に響き渡る。
「ギギッ、呆気ナイ」
「それで終わると思っていたのなら――随分な夢想家になったと、言わざるを得ないな」
「――っ!?」
触手を伸ばした本体の真上へと転移した妾は、妖力を込めて拳を振り下ろす。
「グギガギッ」
だが邪気の影は、わっかとなり拳を避けてしまった。外した攻撃が、真下の地面へとクレーターを作る。
――だが、それは向こうも安易に当たれば無事ではすまないと言うことの裏返しでもあった。この奥深くまで亀裂の入ったであろう地盤のように。
「ギャギャギャ! 全身ガラ空キダゾ抜ケ殻ァッ!!」
離散した邪気の影が、無数の針となって戻って来た。
「本当に、しばらく見ぬうちに、随分と慢心するようになったな」
「ナ――、ァ……ッ!?」
妾は周囲へと鬼火を放つ。勿論、力の密度をこれでもかと言うほど固めた強烈なモノだ。
邪気の影は一斉に取って返すが、全てを逃れさせるには遅い。
直撃を受けた奴の一部は、蒸発するように霧散した。
「余裕で勝てると調子に乗り、真っ先に取りこみにかかる。そうしてそのまま身体を乗っ取るつもりだったのだろうが――捕まえるなら、ポケ○ンよろしく弱らせるべきだろうに」
「ナ、ゼ、ダァ――? アノ屋敷デ対峙シタ時ニハ、コレホドノチカラハ――」
「あの時は、娘たちが近くにいたからな、フルで暴れれば危険が及ぶ。だが、今この場所には真上のビルを含め誰もいない。持ち主にはご愁傷さまと言わざるを得ないが――恨みつらみの念でできた貴様ごときに、愛のパワーでここに立つ妾が負けるわけが無い」
集合し、削られた体で苦々しい顔をする邪気の影。人型が、まるで虫食いにやられたノートのように穴だらけだ。
――この分ならば、奥の手を使う必要もないか。




