《第367話》『暗黒の意志』
「ハッ! うぬぼれるな残りカス風情が。妾が真に恋しきは、それぞれ光、そして闇に生きる同胞達よ」
「ククッ、言ヨルワ。サテサテ、果タシテドチラガ残リカスカナ?」
ただひたすら、真っ暗なその場所で。妾は邪気の影と対峙する。この暗がりの中でも目の利く妾には、ヤツが不敵に笑っているのがよくわかる。
妾の愛するヒトの顔で、そんな邪悪な微笑みはやめてほしいのだが。
それはさておき、ここは一体何なのか。
一つとして照明が灯ることなく、その中、周りでは機械の作動音が鳴り響いていた。まるで、誰もいない音楽室からピアノの音が鳴るような不気味感――と言えば、例えが綺麗すぎるだろうか?
誰もいないことと言い、唐突にSFチックになる地下と言い。本当にこのビルは何なのか。
――いっそ、目の前のコイツに聞いてみるか。そもそも、コイツがここへと入ったから、妾もここに居るのだから。
「おい、この場所は何だ? 随分と急いでもぐりこんだみたいだが」
「ググッ、コノ場所カ。サテ、ナ。我ニモ分カラヌ。我ハタダ、色濃イ邪気ヲ吸収スルベク求メタラココニ辿リツイタダケヨ」
「邪気――?」
「ワカラヌカ? ココニハ、我ニ匹敵スルホドノ強イ邪念ガ滞留シテイルノダ」
妾は感覚を集中させ、周囲の気配を探ってみる。
――驚いたことに、ここにはとてつもない密度のそれが満ちていた。邪気の影があまりに妾を息苦しくするせいで、この場の黒き気配を察知できずにいたのだ。
そして、邪気の影はそれを自らの力とすべく飛びこんで来た、というわけだ。
「ググッ、オカゲデ我ノ力ハ更ニ増スノダ! 兼ネテヨリ集メテ回ッテイタガ、コレホド美味ナルモノハ他ニナイ!」
「その力を使い、そして妾を取りこみ――何をするつもりだ?」
「知レタコトヨ――」
邪気の影の姿が、歪む。全身から触手のようなモノが伸びあがり、それら全てが禍々しい牙を生やし始めた。
その姿はまさに異形。人の顔が鬼の形相と化し、悪鬼そのモノを体現したかのようにまで変わり果てる。
「全テノ器物、文明、生命、目ニ映ルモノ全テノ殺戮、ダァァアアアアアアアアアアッッ!!」
妾から出た錆の後始末が始まった。




