366/1022
《第365話》『暗き気は下に溜まり落ちる』
「――なんだ、ここは?」
妾が窓から侵入したそのビルは、一見するとただのオフィスビルだった。並ぶデスクも、何もかも、まさしく世間一般的なイメージのそれであり、今の光景は一切違うことが無い。
しかし、妾が違和感を感じたのは、そこに誰もいないと言う事実だった。
平日の真昼間であるにもかかわらず、明かりをつけずに、しかも人っ子一人いないし、ビルの全てからも気配は感じない。
「お化け屋敷などと言うパチモンの、何倍も恐怖感がある、な」
ただ漂っているのは、邪気の影の気配のみ。この薄暗い中、怖気の走る空気感だけと言うのは、正直耐えがたい苦痛である。
――そんな闇の塊が、移動している。このビルの階下、階下へと。
「全く、どこまでも妾を苦しめおって――ッ」
ぶっちゃけ、苛立ちは頂点に達している。
気味の悪い建物内を、そして何より今は妾の苦痛にしかならぬ暗き思念を。それらを全てまとめて振り払うかのごとく妾は拳を振り上げ――、
「いい加減にしろォッッ!!」
高層ビルの一階まで突き抜ける程の力で、床を殴り貫いた。




