《第359話》『過去の紙片・十枚目』
「――くれ、は。なんとも、変わり果てた姿となってしまった、な」
「ミ、ナ――ホロビテ、シマ、エッ」
どれほど、その邪気をまき散らしながら暴れたのか。都の一角は焦土と化し、ぺんぺん草も当分生えないであろう。
この場をそんな光景にした元凶は、かつて道摩法師が「呉葉」と呼んでいた鬼は、今もまだ強烈な邪気と妖気を放っている。
「う、く、やめ、ろ、ぉ――っ。これいじょ、う、はかい、する、な……っ」
「こやつ、は――例の九尾の娘か」
すでに意識はないだろうに、九つの尻尾を投げだしながらうわごとをつぶやく少女。激しい戦いの傷跡が、この場所だけでなく呉葉にも、そして狐と人間の半妖少女にも現れている。
「――元々、ただの人間ではあり得ない妖気を身の内に秘めていた。しかし、そんな特異体質も、普通の暮らしの中では関係などなかった。呼び覚まされさえしなければ、表に出ることのないモノだったから、な。げほっ、」
「ググ、グ、ガァ――ッッ!!」
邪炎を纏い飛びかかってくる白鬼。道摩法師は、満身創痍の身体で結界を張ることで何とか、拮抗する。
――が、ミシミシと、そんな壁も容易く歪められていく。
「っ、万全でも押しとどめられぬかどうかわからぬ力、今の、この、状態では無茶、か――ッ」
槍に貫かれる直前、咄嗟の判断で、自ら編み出した禁術を用い自らの肉体を不死に近い状態にしたとは言え、所詮は付け焼刃の思い付きで行った術。完全とは言えず、道摩法師の命の灯も風前に晒されていた。
「ぐ、ぅ――ッ!」
結界が破られた直後に身をそらすが、左肩から腕が呉葉によって一瞬で灰燼に。まともに直撃していれば、蒸発していたと言っても過言ではなかっただろう。
――だが、それでも、
「――なんとしてで、も、お前を止め、る。このままじゃ、汝も我も、悲しすぎるから、な……ッ」
例え命が消し飛ぼうと、身体が、魂が砕け散ろうとも、道摩法師は呉葉を解放すると決めていた。
ただ憐れみの元に解放しただけなのに。いつの間にか、この白く美しい少女に、情が沸いてしまっていたから。




