《第三十五話》『時には開き直ることも』
「むぅ、そうは言うがな、よくよく考えれば、むしろ時代がようやく妾に追いついたとも言えるのだぞ?」
「ど、どゆこと?」
「そもそも、妾の容姿を見てみよ」
「うん、綺麗だよね」
「む、むぅ、想定外のタイミングで褒められると流石に照れるな――それでまあ、妾は人間の言う平安時代から存在しているのは知っているな?」
「すごいよね――1200年前から……」
「そして、その時から服装こそ違うものの、この姿だったわけだ。そして、その時代の美人の基準はおたふく風邪だ」
「ふっくらしているヒト=美人っていう常識だったんだよね」
「そうだ。だが、見ればわかる通り妾はこの通りほっそりとしている。よって、なんて呼ばれていたかと言うと――」
「と?」
「真っ白で不健康そうだからとそのまま幽霊」
「…………」
「そこ、笑うところだぞ」
「呉葉って、意識して冗談いうと絶対に受けないタイプだよね」
「地味にヒドイことをさらっと言ってくれるな!? ――だがまあ、そう言うワケで、当時としてはこの美しさはウケないわけだ」
「――まあ、時代が違うからね」
「ところが、だッッ!!」
「わっ、びっくりした!?」
「この時代になって、妾のこの姿が絶世の美女と言う認識になったわけなのだッ!」
「は、はぁ――というか、どちらかと言うと、美少女?」
「そして、妾は昔よりもこの時代の方が快適で過ごしやすい! つまり、これが何を意味するか! 要するに、妾はこの時代の暮らしを楽しむために、あえて状態のよろしくない時代を体感してからその素晴らしさをより大きく感じられるような人生を送ってきたのだッ!」
「へ、へぇ――」
「なんだ? 論理的に導き出したというのに、どうしてそんな顔をする?」
「い、いや、だってさぁ――」
「うむ?」
「――それ、大分こじつけ入って」
「言うな。それは言うな。実感したくない。実感したとき、とてつもなく虚しくなる」




