《第358話》『過去の紙片・九枚目』
道摩法師の胸から、湧き出る泉のごとく赤い血液があふれ出る。
どろりと下に作られる血だまり。貫通した槍が支えとなり、彼の身体は地面へと倒れ切ることは無い。
「……――ッッ!!」
「ふっ、貴様との数々の遊びは、吾の退屈しのぎには充分なってくれた」
道摩法師の声を遮るようにさし降ろされた槍。呉葉は、今見ている光景に頭が付いて行かない。目の前の事態が、未だ把握しきれない。
そんな彼女に、安部晴明はじっと顔を近づけた。
「《吾を怨め》」
「――っ!?」
「《吾を怨め。貴族を怨め。都を怨め。国を怨め。全ては――全ては大衆の意志。芦屋道万もとい、道摩法師は人間の意志により今日殺された》」
言霊が紡がれた途端、憎悪が呉葉の中で沸き上がり始める。
そして、その憎悪に追いつくように。状況への理解が進んだ。
道摩法師が今まさに死んだこと。槍によって刺し貫かれたこと。そして、それを行ったのが、そこに居る安部晴明であることを。
口では悪態をつきつつも、確かに楽しかった日々が流れていく。それが、まるで紙を引き裂くかのように途切れさせられた今のこの瞬間。
突如奪われた日々。夕立のように突如降り注いだ悪夢――、
ひときわ大きな水滴が、水面に波紋を作った。
「円滑に進めるには、この場所が気の巡りを考えた上で一番よかったわけだが――吾の見立てに間違いは無かったな」




