《第356話》『過去の紙片・七枚目』
「白鬼を捕獲してまいりました」
「おお、ほっほっほ、ご苦労ご苦労。白鬼の生き胆が、もうじき手に入るぞぉ」
宮中の、数ある建物の中の一つ――白い少女は、黒い衣服の男が段の上に腰かけるその前へと、投げられるように出される。
自分を連れてくるよう命じさせたらしきその男が、貴族の人間であることを呉葉はすぐに見抜いた。
「っ、く――っ!」
「う、お、前――?」
その場には、縄で縛られた道摩法師もいた。その様はボロボロで、いつもよれよれだった姿はさらに悲惨で、誰の目にも二と見られたものではないだろう。
「道摩法師、どう、言うこと、だ――?」
「す、まん――っ! 隠しきれなんだ……ッ!」
「隠す――? クックック、嘘だらけのお前らしい、薄っぺらい虚言だな」
少女を連れてきた男が、含み笑う。
「どういう、こと、だ――?」
「白鬼よ、貴様が道摩法師と呼ぶ男。そ奴が吾らの前で名乗る名は、『芦屋道万』と言う。吾とは別の方に仕える陰陽師だ」
「…………」
「そして白鬼、お前はそんな男に騙されてあの場所へと押し込められていたのだ。何故だか分かるか?」
「――生憎、わたしは呪術の類には疎い」
「それは、常にそばに置いておき、お前と言う強力な器に呪力を溜めておくためだ。そうして強力な鬼を生み、自らの式神とするためにな」
「っ、馬鹿な、我はそんなこと考えたことも――っ」
「吾は知っているぞ芦屋道万? 常日頃、貴様が白鬼へと発する言葉。それはいつも、あやふやな台詞で、信用に値するモノなど大してないことなどな」
「何を、適当な――っ」
「猪を取る罠で家に穴が開いた。金の無い甲斐性無し。名前などと言う首輪を、一年してからようやく嵌めもしたか」
「な、ぜそれを知って――っ!? っ、まさか!?」
「吾を誰だと思っている? その通りよ。貴様が白鬼を連れだしたその時より、式を張りつけていたのだ」
道摩法師は、この瞬間確かに己の行いを悔いた。呉葉と話すのがつい楽しくて、明確な答えの無い問いと返答を繰り返していたのが、今まさに目の前の少女の疑いを助長しているに違いない。
――そんな道摩法師の苦々し気な顔。それを、少女は見ることなく。しかし、堂々とした面持ちで口を開く。
「物事を説明するときくらい、わたしを名で呼んだらどうだ?」
「む――?」
「わたしの名は『白鬼』などではない――呉葉だッ!」




