《第353話》『過去の紙片・四枚目』
「――なあ、白鬼。汝、これからどう生きるか考えたことはあるか?」
「藪から棒に、どうした――?」
唐突なその問いに、白鬼はその日の夕食となる猪の処理をする手を止め、道摩法師の顔を見た。
「ぶっちゃけ我、汝を牢から出した後どうするか、さっぱり考えていなかった――!」
「――はぁ」
「ぬ? 反応薄い? 我、折角あの日以来ずっと思い続けてきたことを告白したのに!」
「あまりに今更過ぎるだろう。季節がもう一巡するぞ」
まだ白鬼を探す追っては無くなってはいなかったが、今となってはその数も大していなくなっていた。
誰も道摩法師が逃がしたことを知らず、この辺り一帯に彼が術をかけたために白鬼の姿を見たと言う者もまるでいないのだ。
その一方、祟りを恐れる者が引きこもって未だ怯えている、と言う話も貴族の間にあるのはまた別のお話。
「未だ、わたしを助けた理由も聞いていない、し」
「そ、それは最初に告げたではないか!」
「食べ物だの花だののたまっていたことは覚えているが?」
「例え話だって分かっていながらわざと言っているな白鬼――ッ!」
「どうした? 泣くか? また泣くか?」
「煽らんでくれっ」
白鬼は、道摩法師の様子に面白そうに微笑んだ。
最近の彼女は、よく笑うようになったと、道摩法師は思う。その大半が、己がからかわれている状況であるが、ともかく、この少女には笑顔が似合うため、それは些細なことだ。
――道摩法師は思う。
この白鬼を、本当は一切呪術など使えない大半の陰陽師たちから救い出すことができて、真に幸いであった、と。




