《第351話》『過去の紙片・二枚目』
「白鬼、今帰ったぞ!」
「出てけ」
「ほごあっ!?」
道摩法師は、あばら屋に戻るなり暴言を吐かれ胸を押さえた。何を隠そう、ここが彼自身の家の一つであるはずなのに、だ。
「あ、相変わらず、汝は我に心を許してくれる様子が無い、な――!」
「嘘だらけのお前に、どうやって心を許せと言うんだ」
「う、嘘――? 我は汝に嘘をついた記憶などないのだが――」
「まず一つ。どこが旅をしている、だ」
「旅は実際にしていたし、今も旅人だ。自宅から数歩出歩くことを、旅と言ってはいけないなどと言う決まりはどこにもない」
「二つ。わたしを助けたい、と言っておきながらこんなところへ閉じ込めている」
「牢屋からは助けたろうに。それに、今外に出ようものなら、汝はまた逆戻りだぞ? そんな場所で臭い飯を喰らうよりは、まだ今の方がマシではあるまいか」
「あまり変わらない」
「ぶぐっ!?」
「ここは汚い。臭い。不潔」
「ぶげぐぐっ!?」
「オマケにご飯はあそこの方がマシ。あなたの用意する食事は生臭い」
「汝、それ以上言うと、我泣いてしまう――っ!」
よもや、白鬼がここまで我儘だとは、道摩法師は思いもしていなかった。それが彼女自身の生まれと、負の方向への歪んだ特別扱いが、己を特別と思わせている一因であることを、道摩法師は一応察してはいる。
だから、そう簡単に心を許してはくれまいと、そう考えていた。この、本当は少し呪力が強いだけの少女は、今までそれだけのことをされて来た。
――だが、
「けど――……寂しくはない。それだけは、評価」
小さく微笑むその表情だけで、道摩法師はそんな彼女の憂いが全て洗われるような感覚を受けた。




