《第249話》『千年の鬼』
「ふむ、『道摩法師』、か」
「当然わたくしめはその時生きておらぬので知る由もないのですが、呉葉様は覚えておいでで?」
「ヒトを年寄り扱いしおって! ――と言いたいところだが、ついこの間まで妾もその存在を忘れていた」
妾の邪気――破壊衝動とやらが封印されていたあの場所へと踏み込んだ時、流れてきた過去の「時間」そのモノ。追体験したあの光景は、間違いなく妾がその当時見たモノだったのだ。
「言うなれば、道摩法師とやらは妾の恩人となるわけ――なのか?」
「話からして、そう言うことになるのでしょうな」
「ふむ――」
「今度はどうなされました?」
「いや、な。であるならば、礼を言わねばならんと思ったところだ、が、どんな術師と言えども人間だ。それも千年前と来れば、とっくにくたばっているだろうな、と思ってな」
「人間が鬼となって千年生きた例なら、目の前に」
「妾は妾だ。だいたい、対処する側が成ってどうする」
「あと、その一件には藤原 鳴狐様も押さえるのに協力していたと言う話が」
「いい、いい。あいつはいい」
「そ、そうでございますか――」
「それよりも、だ。結局、何故封印のことは妾には一言も今まで話されなんだのだ? 少し前とはいえ、妾の家のことだぞ?」
「それもまた、伝えられております。曰く、呉葉様が認知することにより、再び邪気と結びついてしまう、と」
「ふむ――?」
「認識していることと認識していないこと。これは、霊的力と密接に結びついております」
「一例だが、真名を教えてはならないと昔流行ったのは、実際術師の多くが名前をとっかかりにしていたからだな。当時は、術の媒介として明確に形を成せるものがそれしかなかった」
「今は、写真などがありますからね」
「ともかくなるほど、一応の納得はいった。妾が、そのことを覚えていなかったのも、な。今認知してなんともないのは、別のモノと結びついてしまったから、か」
あの、夜貴の中より生まれ出でた邪気の影、と。




