《第333話》『だいふく』
「おい、なんだディア。また説教――……な、に?」
電話の向こうから、神妙な様子の友人の声。それは、我が最愛の夫の容体が急変した、と言うモノだった。
「お、おかーさん、あおいかおしてどうしたの――!?」
「夜貴に、何かあったらしい」
「――途中の検査では、大丈夫だって言われてたんじゃ……」
「長き時を存在し続けた妾でも、鬼化に関することは調べても調べきれなんだ。つまり、何が起こるのか、正直言ってわからんのだ」
確かにあの時、夜貴からは不気味な程妖気や邪気の残りを感じなかった。が、もしそれが一時的なモノだとしたら?
元々、物理法則だとかエネルギー保存の法則だとか、この大地の理とは全く異なる次元の話。で、あるならば。それこそ、何が起こっても不思議ではないのだ。
「病院へ戻るぞ――!」
妾は子供たちを伴って、病院へと向かう。空間に穴を開け、出口を繋ぎ。
そうして入った病室。そこに夜貴はいない。妙にのんびりとした看護師に話を聞くと、談話室のほうに居るらしい。
そうして見つけた、椅子に座って外を眺めるその後ろ姿。
「夜貴っ!」
「ん、あ、呉葉」
振り向くと、そこではうまそうに大福を頬張る愚かな夫の姿があった。




