《第331話》『虫の知らせ』
「呉葉が、困ってる気がする」
「えっ?」
根拠のない虫の知らせ。病室で一日待機を言い付けられた僕のそんな一言に、お見舞いへと来てくれていた藍妃が反応した。
「呉葉って――アンタの奥さんだっけ?」
「うん」
「――アンタもまあ、思いきったことをしたわね。そんな若さで結婚なんて」
「藍妃、それ前も聞いた気がする――」
「で? そのお嫁さんが? 何? どうしたって?」
「な、なんだか、急に不機嫌になったね――?」
「べっつにー? そんなつもりないけどー?」
さっきまで、藍妃は妙に上機嫌で近況を話していた。しかし、僕が呉葉のことを口にしただけで、突然これだ。
もしかすると、彼女は呉葉のことを嫌っているのかもしれない。それは残念ではあるけれども、そりが合わない同士と言うのはどうしてもあるし、仕方無い。
けれども、気になってしまうものは仕方ない。
「――ちょっと心配だなぁ。呉葉、一人でかかえちゃうところがやっぱりあるし。明らかにムズカシー顔してたのに、『心配するな』とか言ってたし」
「そんなに気になるなら、電話かけるなりなんなりあるじゃん」
「いやいや、多分こう言う時は電源切ってると思う」
いつも抜けているところがあるとはいえ、流石にそう言うところに抜かりはないだろう。いや、そもそも切っていなかったとして、電話に出る、なんてこともないだろうが。
「うーん、そうだなぁ――だったら、」
僕は、何とか呉葉と連絡が取れそうな方法に思い至り、自分の携帯電話を手に取った。
かける先は僕が普段努めている事務所。誰かに、間を取り持ってもらうのだ。




