《第三十二話》『某有名企業のオールスター対戦格闘ゲーム』
「夜貴、久々にゲームしよう!」
「これまた唐突だね――」
妾はディスクをゲーム機に入れながら、夜貴をその宴へと誘う。ジャンルは対戦格闘ゲーム。パワーとテクニックの複合がぶつかり合う、妾が最も好むタイプだ。
「いつ以来だと思っているのだ? 共にやって、あれから2、3カ月は立っているとおもうのだが。ずっと一緒にやることを楽しみにしていたのだぞ?」
「うう、スミマセン――。でも、それだけ期間が開いてたら、僕じゃ相手にならないよ?」
「安心しろ。妾も、あれ以来このゲームには触れておらん」
それは本来夜貴と共に遊ぶために買ってきたゲームなのだが、毎日仕事をして疲れているだろうと思い、なかなか言いだせなかったのだ。
久々に遊ぶのは、勿論この仕事人間と共にプレイすることを考えていたからだ。正直、家に一人でいるときもやりたくて仕方なかったが、そこはしっかり我慢した。妾エライ。
「それに、最初のプレイの時点で既に妾の相手にはなっておらんかったろう」
「それは言わないで――」
「いやはや、まさか夜貴のゲームプレイセンスが、左へ進もうとしてスティックを右に入力してしまうほど酷いモノだったとは――」
「言わないで~!」
「ともあれ、いかに期間が開いたとはいえ、流石にそんなことは――いや、戻って居る可能性も……ええい、とにかく遊ぶぞ! 遊ぶ!」
妾が電源を入れると、しばらくしてテレビ画面にはいくつもの四角とそれに収められた項目が現れる。そのまま左上を選択し、ゲームを開始した。
「――でも、やっぱり僕じゃあ呉葉の相手にはならないと思うなァ。慣れが違うし」
「ふふ、安心しろ。基本的に今回の妾は味方。つまり、お前のサポートに回る」
「――? けど、それじゃあ呉葉には退屈じゃない? 僕、あんまりやらないからド下手確定だよ?」
「気にするな」
妾は夜貴に笑いかける。
「妾が楽しみたいのは、一方的蹂躙ではなく、お前と遊ぶことだ。やりたい放題することだけが、娯楽ではないだろう?」




