《第319話》『抜けたる鬼の気配』
「にげ、ちゃった――」
「くっ、なんてこと――」
苦虫を噛み潰したかのような顔をする娘二人。妾はそんな二人を見守りつつも、建物内の気配を探る。――あれほど濃密で気分の悪くなる邪気は、今では完全に消え去っていた。その残滓すらも、知覚することは出来ない。
そうして浮かび上がってきた、もう一つの気配。これは紛れもなく――、
「夜貴ッ!!」
妾はそれを理解したところで思わず叫び、階段を下った。その途中、封印の札が幾重にも貼られ、かつそれらが全て破られた扉を全て抜け、最下層まで駆け足でたどり着く。
「っ、夜貴ッ!?」
そうして、その先の部屋、その中央。これまでくぐった扉以上に何重にも封印の札や道具で念入りに室内を囲われたそこに。妾の大切なヒトがいた。
「夜貴! 夜貴ッ! しっかりしろ、夜貴ッッ!!」
「う、ん、うぅ――……くれ、は――?」
うめき声をあげながらゆっくりと目を開く最愛のヒトに、安堵の息を吐く。よかった、本当によかった。もし死んででもいれば、妾は――、
どう言うこと、だ――?
あの時は確かに感じ取れた鬼の気配が。完全に消えている。
夜貴が、普通の人間に戻っている――?




