《第316話》『仄暗き影は内に如何ほどの闇を溜めこんでいるか』
邪気の塊をそのまま引きのばしたかのような触手が複数、人型の背中から伸びてくる。
「――っ、来るぞ!」
それらは蛇が鎌首をもたげるようにその先端をこちらへ向けたかと思うと、「全て」妾へと向かって飛びだした。それらを飛び上がり回避すると、木造の床はいとも容易く破壊される。
「この――ッ! 子だと言っておきながら、何故皆殴りかかってくるのだ!?」
「ええっ!? わたしたちはあんならんぼーしてないよ!?」
「一緒にされるのは心外、ね」
活葉が炎の連弾を邪気の人型に放ち、謳葉が壁を縦横無尽に飛び牽制しながら飛びかかっていく。
触手ごと、高速でがら空きの胴体が引き裂かれる。それを邪心の塊が捕らえようと手を伸ばすが、既に駆け抜けた中空に姿を現したのは――紅蓮の火球たちだった。
「ギ――ッ!!」
「そうだな――あのような黒き塊が、」
妖気を両手に込めて、妾は床を蹴った。力に耐えきれなかった木の床が爆裂するが、力を支える役目を放棄したとき、既に妾はそこに居ない。
「愛する夜貴や我が子達と同じ存在であるはずがないッ!」
体勢を立て直そうとする人型へと、妖気が込められ破壊力を増した拳が炸裂する。
「ギ、ゴォ、アアア――ッッ!!」
黒き邪気の塊は、肉塊に爆薬を詰めて火をつけたかのごとく弾け飛んだ。そのまま、霧状になりゆき霧散してゆく。
「――グ、ククッ、クカカカカカカカカ……ッ」
だが、ほんの一呼吸おいただけで、それはすぐに元に戻った。衝撃を受けたことなど、無かったかのように。




