《第315話》『邪気の影』
「貴様、夜貴――ではないな? 何者だ?」
「コノ流レデソノ問イハ流石ニ愚カデハナイカ?」
「貴様は、この場に充満しているのが妾の邪気であると言った。それがどう言う経緯でここに封じられていたかは知らぬが、それが貴様自身であるようには、とても思うことができぬ」
「ナルホド、タダノ愚カ者デハナイヨウダ」
夜貴の顔で、あやつが到底せぬような邪悪な笑みで、そう答えてくる。
「ソウトモ。我ハ貴様ノ邪気デハナイ。否、正確ニハ貴様一人ノ邪気デハナイ、ト言ッタトコロカ」
「…………」
「我ハ、狂鬼姫ト成リ果テタ際ニ生マレタ邪気ト、今コノ地下ニテ眠ッテイル樹那佐 夜貴ノ邪気ノ混合体デアル」
「夜貴の――?」
「一度貴様ト戦ッタ際、夜貴ハ僅カナガラ自己ヲ取リ戻シタ。シカシ、ソノ心ハ未ダ黒キ闇ニテ染マッタ愛情ニ支配サレテイルノダ」
ぶつかり合った際、衝撃だけでなく様々な心の葛藤が、あの時妾の意識を奪った。だから、あの後夜貴がどうなったのかなど、まるで知ることができなかったのだ。
「ソウシテ、愛シイ狂鬼姫ノ気配ヲ追ッタ結果、ココニタドリ着イタ。コノヨウニ、自ラヲ引キ寄セタ邪気ト結ビツキナガラ」
アレが、あんな邪悪な気配を隠しすらもしない何かが、妾と夜貴、それぞれから溢れた邪気によって生まれたもの、だと――?
「ねーねー、つまり、ええっと――あのヒトは私達のおにーちゃん?」
「あんな邪悪なモノが、お前たちの同類だとは思いとうない」
「ホウ」
突如として、邪気の混合体が漆黒の玉を投げつけてきた。
「我ハオ前ノコトヲ、産ミノ親ト思イタイノダガナ?」




