《第312話》『赤く染まる空』
「っ、何だアレは!?」
ある夜。突然、外が騒がしくなり始めた。
「この都に、とんでもない化け狐が潜んでるって噂。聞いたことあんだろ?」
「そんな噂なら、俺も耳にしたことがあるな。大陸から渡ってきた、とんでもない妖怪だって」
「そいつを今、燻りだして退治している最中なんだとさ」
大陸から渡ってきた大妖狐――その単語が、一つの水滴を生んだ。
「でもあの方角にある屋敷って――」
「たしか、貴族の女の子も住んでたと思うぜ。でもそいつもまた狐の一匹だとかなんとか」
「ホントかよォ! この間口を聞いちまったぜ!?」
「うっわ、やべぇ! 狐がうつるぞ!」
「やっかましい! 俺、なんかおかしなところないよな? 化かされてねぇよな!?」
「俺に聞くなってぇ! ――あ!」
「な、なんだよ――?」
「――いや、なんでもねぇや」
「気になるだろォ!?」
「へへへ、なーにに気が付いちまったんだろうねぇ俺ぇ? 教えてやらねー」
「っ、てめっ、殴るぞコノヤロウ!」
貴族の女の子。狐。それを聞くだけでも、その正体が嫌でもわかろうと言うモノ。
水滴がしたたり落ち、また一つ大きな波紋を生んだ。




