《第三十話》『贅沢な喧嘩の終わりに』
「――しかし、こんな日が来ることになろうとはな」
「うん?」
「ふーふげんか」
「あ、はは、は、は――? 初めて、だったっけ?」
僕らは街灯に照らされた、まだわずかに空に光の残る道を歩いている。最初は恥ずかしかったが、今は手を繋ぎ続けていることに安らぎさえ覚える。
「妾が不満を言ってもお前はすぐに謝るし、我儘言ってもお前はうまいこと収めるしな。正直、すんなりと関係がうまくいきすぎて、時には物足りなさを感じることもあったくらいだ」
「だって、こっちが悪いと思ったら普通謝るものじゃない? 呉葉の我儘だって、僕の手を求められてるって思ったら、叶えたくなるよ。――無理難題は流石にどうしようもないけど」
「少しは妾を見習え」
「手のかかる子供は一人で充分だと思うんだ」
「お前が妾のことをどう思ってるのかよく分かる発言だな!?」
「でも、やっぱりそれは僕にとって嬉しいことなんだよ。呉葉が僕を頼ってくれればくれる程、僕自身に存在価値があるんだなって、思えるから」
「…………」
突然、呉葉が僕の手を握る力が強くなった。
「――どしたの?」
「む? ああ、いや。何でもない」
そうは言いつつも、呉葉はもう一方の腕を僕の腕に絡ませてきた。何もなく、こんなことはしてこないと思うのだが、不思議とそんなには気にならなかった。
ただ、ちょっと――
「えっと、歩きにくい、かな――」
「黙れ。妾がこうしたかっただけだ。今日は一晩中抱き枕の刑だからな。ただずっと抱きしめ続け、身動きできぬよう拘束し続けてやる」
「はは――うん、わかった」
今日も、そして明日も、さらにその先も。僕は、呉葉に振り回されるかもしれない。そのたびに、きっと大変な想いをするのだろう。
けど、それでいい。やっぱり僕は、呉葉のことが大好きで大切なのだから。




