《第307話》『深淵の底の底、果てなき奥底に宿る思念』
意味深な謳葉と活葉の言葉に眉をひそめつつも、屋敷の奥へと進む。いくつもの広い部屋があるが、やや埃っぽいだけでおかしな点は無い。
それ以外には、先ほどのような夜貴の放った邪気の塊が襲い掛かってくるくらい。こちらに関しても、妾と娘二人の戦力が圧倒的であるために苦労とはならない。
「えっと、このさき――だったっけ?」
「そう。――おかーさん、覚悟はいいかしら?」
「…………」
そうして訪れた、木の門で封じられた一つの部屋の前。ここは屋敷本体の離れにある建物で、全体から見てもかなり奥まった場所にある。
そして、妾はこの部屋に一度も近づいたことが無かった。遠方から目にする機会は何度もあったが、そちらの方へ足が向いたことは無い。
――なぜなら、この身体事態が、歩みを進めることを拒否していたのだから。
「――よし」
妾は、覚悟を決める。すると、それを合図と取った双子の娘が、巨大な門の取っ手へと背伸びしながら手をかける。
緊張が走る。頬をつたった汗が顎から滴り落ちる。温度は高くなく、むしろひんやりとしているのに。脇がびっしょりと湿っている。
そうして、扉が空いた時――、
妾の全身を、破裂させるかのような寒気が走った。




