《第305話》『豪腕を振るう小さき鬼』
「――ッ、――ッ、――ッ!」
妾の後方で炎の球が爆裂する音が、何度も耳に入る。
威力自体は大したものだが、確実に動きを止めるには至っていないらしい。思いの外、強力なようだ。
「――よしっ」
妾が手伝っていた謳葉が、意気込んだ様子で声を上げる。何を手伝っていたのかって? それは勿論――、
「といれしゅーりょー! いっくよーっ、活葉ぁ!」
娘の尻ぬぐい(文字通り)に決まっているじゃないか――! ったく。
そうして飛び出して行った謳葉。その俊敏な動作はまさしく獣のようで、縦横無尽に跳ねまわり邪気の塊へと飛び掛かっていく。
「とりゃあっ!」
爆炎の嵐が止んだところへ、謳葉の腕が振るわれた。その幼き小さな体躯から繰り出された腕の一撃。
しかし、見た目に反し、その威力は強烈だった。打ち据えられた闇の集合体が、まるでゴム毬のように廊下を跳ねまわる。
「活葉!」
「ええ」
その合図と共に、活葉が手をかざす。すると周囲の暗闇が形を変え、化け物を貫いた。
「これで――ラストッ!」
そこへ、真正面から謳葉の正拳突きが炸裂。象が直接投げぶつけられた以上の衝撃が一点に集約した。そんな強烈な重さの攻撃に耐えられる者は、妖怪であろうとそうはいない。
そして――、
「イ゛、ガ、ギ、 、 、 、 ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」
夜貴の影は、霧散し消滅した。




