《第304話》『妖力を自在に操る白き鬼』
「ア、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーッッ!」
正気を失ったような、臓腑の奥より響く嘆き声。その叫び声は、前にも聞いたことがある。
「早速出たか、夜貴――ッ」
振り返った廊下の奥より、黒い気配が一つ。闇の衣に覆われ、その姿を明確に視認することは出来ないが、その邪気は紛れもなく我が夫が放っていたモノと同質だった。
――だが、何か。妙な点が、一つだけそいつには存在する。
「ええっ!? まだふいてない! おかーさんといれっとぺーぱーどこ!?」
「すぐそこにあるだろう!?」
「なくなってる!」
ええい、何と言うことだ! 突然の邪気の出現に加え、娘がトイレでアクシデントを起こしている! 突然忙しくなったな!?
「仕方無いわね――私がやるわ」
「っ、活葉!?」
獣のように向かってくるその影へと彼女は向き直ると、それに対して小さな可愛らしい掌をかざした。
刹那。こぶし大の火の球が、ロケット弾のごとき速度で発射された。
着弾し、瞬く間に爆発を起こす。
「む、なかなかやるではないか」
「私の力、こんなモノじゃないわ」
さらに、マシンガンのように次から次へと同じような火球の礫が発射されていく。狭い木造廊下だと言うのに、まるで気にしていないかのように。
「おかーさん! はやくたすけて!」
「ああっ、もうっ! 今紙を出してやるから待ってろ!」




