《第303話》『ピンチ! ピンチ!』
「ええい、入り口付近で遊んでいる場合ではないだろう!」
「おかーさん!」
「なんだ謳葉!」
「といれ!」
「突き当たりを曲がって右!」
「右A」
「何のコマンドだ活葉!」
謳葉はトイレへと駆けていき、活葉は相変わらずトーンの低い声で謎の合いの手。
その都度名前を呼んでいるが、性格は真逆でも姿は瓜二つであるために、何度も確認をしていないと不安になる。
「きゃーっ!?」
「っ、どうした!?」
トイレの方から謳葉の悲鳴。あんまりにあんまりにものんきだからうっかりしていたが、今は鬼と化した夜貴がこの屋敷の中をうろついている可能性があるのだ。
現に、微弱であるがその気配と邪気、妖気が建物一体に漂っている。少し、油断しすぎた――どころではない。
「おかーさん! といれながれないよ!?」
「ぶっ!」
そうだった、今は水道――もとい水を操るしもべ妖怪(かっぱとか魚とかそう言う系統だ)が留守であるため、台所もお風呂も使えない。トイレなどもってのほかだ。
「――仕方ない、近くの川から水を転移させ……ッ!?」
「っ、おかーさん――ッ!」
そんな時だった。
周囲を薄く漂っていた闇の者の気配が、突然強くなった。




