《第301話》『禁則事項』
「さて、お前たちの言う場所へと、空間転移で来てみたわけだが」
「さすがおかーさん、アレを容易く使いこなしているわ――」
一度自宅で支度を終えてから、訪れた場所。今は捨て去った、かつて「狂鬼姫」が住処としていたそのちぐはぐな屋敷。明かり一つ付いていないその場所で、活葉は妾を不思議そうに見上げてきた。
「容易く、と言うほどでもない。妾とて、アレは疲れる。お主こそ、簡単に扱っていたではないか」
「私はただヤセ我慢してるだけだわ」
「うむ、妾のもヤセ我慢だ」
「わーいいっちばんのりーっ!」
謳葉は両手を上げて、屋敷の入り口へと駆けていく。
「ええい、待たんか! お前たち、遊びすぎだ!」
「ちぇーっ、せっかくあしあとつけられるとおもったのにー」
「新雪の積もった大地ではないぞ季節外れな! ――全く、結局何の理由も聞けずじまいな妾の心中も察してくれ」
「ごめんなさい、おかーさん。未来のことは、極力話すなって、言われてるの」
「フッ、数時間の間に、耳にタコができる程聞いた」
何度も活葉が、ついでに謳葉が、未来の娘二人を取り巻く環境について話せないことを謝ってきていた。この子らなりに、本気で申し訳ないと思っているのだろう。
「――しかし、ここに本当に夜貴が居るのか?」
「いたよー! おとーさんはねー、このなかで――むがっ!?」
「話してはいけないって、何度言ったらわかるのよ謳葉」
「むーっ! むーっ!」
「手だけ距離を短縮するとは、思った以上に使いこなしているな――」
――まあ、聞かなかったことにしておこう。娘の意図をくみ取り、心の中に言いたいことを留めておくのも、親の務め。
しかし、嫌でも何が起こっているか想像できてしまうのは、やはり妾が鬼だからだろうか。




