《第296話》『旅立ちの一歩』
「よし、お前たち。準備はいいか?」
「はーい! おやつももったよーっ!」
「いつでも」
妾とよく似た、白い髪の双子の童女。二人は、それぞれ全く異なった雰囲気で返事を返してくる。しかし、どちらもとても可愛らしく、目に入れても痛くないとはこのことを言うのだろう、と理解した。
今、妾とこの二人は、夜貴が身を隠しているとされる場所へと向かうところだった。鬼と成ったあの男に会いにゆき、取り戻すために。
「謳葉、これは遠足ではないのだぞ?」
「えー? でも、300円までだよ? ね? 活葉!」
「わたしは同意するつもりはないわ。わたしは、今回おかーさんの味方。あと、わたしはおやつなんて持ってきてないわ」
「ふふっ、まあ、置いて来いとまで言うつもりはないがな」
この二人は、間違うことなくこの狂鬼姫・呉葉と、樹那佐 夜貴の間に生まれた娘だった。
勿論、まだ妾は腹を痛めたことは無いし、夜貴が未だへたれ可愛いせいで、そう言った長考もまだまだ無い。
それでも、この二人が妾の娘だと言うことを実感すると、とてつもなく愛おしく思えた。両者ともに、妾ら親の面影を残すその姿に、万に一つの間違いも無い。
――話は、一週間前に遡る。




