《第288話》『重ならない視線』
「おいっ、夜貴はどこだァ!?」
「うわっ呉葉ちん!?」
やりたくもない事務所の書類整理をしていると、呉葉ちんが扉を文字通り蹴破って飛びこんで来た。ああっ、驚いて身構えたせいで書類がァ!
「おいディア! 夜貴はどこにいるか知らぬか!?」
「知らないかって、アンタが家出したってアタシ聞いてたんだけど!?」
「何、場所を知っているのか!? どこだ!?」
「アタシは一度も知ってるなんて言ってねーよ! 電話で聞いただけだって――」
「くっそォ、夜貴ァ!」
「あっ、まて呉葉ちん書類よくも散らして――」
話を最後まで聞く前に、旧き時代より生きる鬼神は威厳もへったくれもない様子で出て行った。
「――ったく、騒々しいったら、」
「呉葉来てませんか!?」
「オマエもかァ!?」
今度はコーハイまで飛びこんできて、隣の書類の束を崩してしまう。
「えっ、どう言うことですか?」
「さっきはさっきで、呉葉ちんが飛びこんで来たんだよ! ――すれ違わなかったのかい?」
「呉葉がさっき――」
コーハイは顎に手を当てて、一拍考える。
「呉葉!」
「あっ、ちょっ、待っ――」
コーハイは、呉葉ちんと同じように慌てた様子で外へと出て行ってしまった。
「お前らせめて書類片づけてからでてけぇッ!」




