《第287話》『互いに互い』
「おい!? おい! おーい! もしもしーっ!? もしもーし!」
突然電子音が鳴ったかと思えば通話が途切れた携帯電話に、妾は何度も呼びかける。しかし、そのかいはなく無慈悲な「ツー、ツー」音が鳴るのみだ。
「今度は何じゃ、やかましいのう」
「電話が切れた! 多分電池切れだ!」
「不便な点を考えず、すぐ新しいモノに飛び付くからそんなことになるのじゃ。ほれ、そこにある黒電話を使え」
「そんな化石など何の役にもたたぬわっ! そもそも、妾の携帯電話の電池が切れたわけではない!」
携帯電話――と言うより妾のスマートフォンには、夜貴の写真。不意打ち気味に取られたその写真の中で、食べ物を口に含みながらこちらを見ている。
「何故その瞬間を写真に収めようと思ったのか理解に苦しむのう」
「覗くなアホ!」
「目がァ、目がァあああああああああああああああああああああああああああっっ!!?」
「くっ、夜貴ァ!」
鳴狐の両目を人差し指と中指で突いてから、妾は脱兎のごとく外へと駆けだした。
いてもたってもいられなくなった妾。
そうとも、妾の方こそこの短い間でありながら、夜貴と分かれていることに耐えられなかったのだ。




