《第285話》『旧い旧い腐れ縁妖怪』
「ならばどうすればいいと言うのだっ!」
「貴様、躁鬱激しいのう――」
苛立ちが募り始める妾に、鳴狐は茶をすすりながら返してきた。煎餅取っただけで怒り出すどの口が言うか。
「少なくとも、余はこのように距離を取るのは間違いじゃと思うのじゃ」
「どう言うことだ?」
「カッコいいほうのお前が言うには、」
「妾がまるでカッコ悪いみたいな言い方を――!」
「強い愛情という、いかにも胡散臭いモノに一瞬の闇が混じることで鬼となりかけるのじゃろう? となれば、今こうしてはなれていること、それが間違いじゃろうに」
「むぅ――」
鳴狐の言わんとしていることは分かる。一言で言えば、夜貴は不安定な状態なのだ。
「あのいかにもいくじのなさそうな男が、貴様のいないことで感じる不安。それはどれほどのものじゃろうな。ともすれば、狙った結果とは全く異なる事態さえ引き起こされる可能性があるのじゃ。可愛さ余って憎さ百倍、とも言うしのう」
「…………」
「貴様のやるべきことは、振り切った感情の高さを低くすることではない。高さを増して揺らぎかけるたびに支えること。それこそが、貴様のやるべきことなのじゃ」
――――…………、
「――礼は言わぬぞ、駄狐」
「貴様に礼など言われた日には、吐き気が止まらなくなるのう」
その鳴狐らしい返答に、妾はふっと笑う。
そして、今は妾を探して何処かに居る夜貴に謝罪すべく、携帯電話を取り出した。




